勝野さん(司会)
EBMをもう少し詳しく教えていただけますか?
青柳教授 一昔前は、偉い医者が患者を治療して、経験に基づいてこういう治療法が望まれるというのが主流でした。ところが、1人の医者が診られる患者数は限られているわけで、他の患者にも有効か、もっと多くの患者を調べて、本当にそれが治療として良いのかどうか調べましょうということが始まりですね。 それは統計学的手法を用いて、そして出た結果がエビデンス(事実)になるわけですね。それに基づいて、ある薬がある病気に有効だという事実に基づいた治療をしていきましょうというのがEBMですね。
桐山 エビデンスといっても、一つひとつの重要性が違うのですね。例えば、癌に効く薬があるとしますね、何人飲んで癌が消えたのかが問われるわけです。10万人飲んで1000人が消えたでは、重要性に乏しいエビデンスということになります。 何千人規模の臨床試験で、いろんな治療法をしたものと比べてみて、これで治療した方がたしかに効いている、科学的に効いているということを見ていって、その事実を蓄積して、それに重さをつけて、大事なものから現場に応用しようというのがEBMです。 こんなことも考えなくてはいけません。ある病気に効く薬を使ったとします。でも、皆に効くとは限らない。使用すれば病気になる確立は減っても、絶対に病気にならないとはいえないのです。 医師は、そんなことをきちっと患者さんに情報開示して納得してもらう必要があります。患者さんに治療に参加してもらうのですね。特に、治療から予防する医療に移っている今、それをきちっと示すことが大事になってきています。
勝野さん(司会)
患者もこの薬はどんな薬か、そして治療経過をちゃんと記録しておく必要がありますね。
桐山 基本的に医療は、医者が施すものではありません。また、ただで国から与えてもらうという意識も捨てていただきたい。自分で払った医療費に見合うだけの利益がないといけません。医者と共同作業で治療していこうというものに変わっているのですから。 自分の健康を守るのは医者ではなく自分です。アドバイスするのがお医者さんという考え方でないと、守れませんよ。手術などでセカンド・オピニオンといって、別の医者にも聞いて総合的に判断するというのも、そういう考え方からきているのです。最近では、これを積極的に勧める医者も増えています。
勝野さん(司会)
ほかに、日本の医療で変わっていくべきだと思われることがありますか?
桐山 アメリカでは公的保険でカバーしている割合は少なく、民間の保険でカバーしています。それで、保険会社が病院を抱え込んで、この病院にはこれだけしか払えないということで医療レベル自体が落ちたことがあります。それで、医者からも政府からも独立した医療の質検討委員会ができました。ある医者が医療ミスをしたとします。それがホームページに載り、ペナルティーが科せられます。 例えば1週間の勤務停止と同時に、勉強をして論文を書いてパスしたらそれを解除するというようなシステムがあり、レベルアップにつなげるのです。 アメリカでは医療ミスを減らすシステムができてから、最もミスの報告が多い病院が致命的ミスは一番少ないということになりました。ミスの根底にあるものを出していかないと、向上はありません。ちょっとしたミスが多い病院が、最も安全な病院なわけです。 日本のように、ミスがあった病院をたたくだけでは、ミスを隠すという結果になるのです。そういう面も考えていくべきです。
もう一つ、患者一人ひとりの生活の質、人生の質、命の質を重視する「クオリティー・オブ・ライフ」が重視されてきました。そのためにも、患者の代表とどういうサービスをすべきかなどを話し合うことが重要になっていると思います。
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